椎間板ヘルニアの手術を受けたのに、腰の痛みが残っている。
「神経の圧迫は取り除いたはずなのに、なぜまだ痛いのだろう?」
「手術は成功したと言われたのに、腰痛が改善しない」
このような悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
実は、椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫と、腰痛そのものは必ずしも同じ問題ではありません。
腰痛には、椎間板や椎間関節、筋肉・筋膜などの組織だけでなく、神経系による痛みの調節機能や身体活動の状態など、複数の要素が関係しています。
そのため、手術によって神経への圧迫が改善しても、腰痛が残ることがあります。
ただし、術後の痛みにはヘルニアの再発や感染など、医療機関での再評価が必要な病態が隠れている場合もあります。
今回は、東新宿・若松河田のパーソナルコンディショニングスタジオ「FLOW CONDITIONING」が、医学的な知見をもとに、手術後も腰痛が残る理由と運動療法の役割について解説します。
1. 椎間板ヘルニアの手術で改善するものとは?
椎間板は、背骨を構成する椎骨と椎骨の間に存在し、荷重の分散や脊柱の運動に関わる組織です。
その中心には髄核、周囲には線維輪が存在します。
椎間板ヘルニアは、椎間板の組織が本来の位置から局所的に突出・脱出した状態です。
突出した組織が神経根を圧迫したり、周囲に炎症を引き起こしたりすると、臀部から下肢にかけての痛み、しびれ、筋力低下などが生じることがあります。
こうした神経根の障害による症状を「神経根症」と呼びます。
椎間板ヘルニアの手術では、主に神経を圧迫している椎間板組織を取り除き、神経根への負担を軽減。
脚に広がる神経根性疼痛の改善が期待できます。
一方で、腰そのものの痛みには、神経根の圧迫以外の要素が関係している場合があります。
つまり、神経への圧迫を取り除くことと、腰痛に関係するすべての要素を解消することは同じではありません。
実際に、椎間板摘出術後の腰痛を調べた研究では、術後も一定割合の患者に腰痛が残ることが報告されています。
これは必ずしも手術が失敗したことを意味しません。
ただし、痛みが改善しない場合には、再ヘルニアや残存する神経圧迫、術後の瘢痕形成、感染、脊椎の不安定性なども考慮する必要があります。
まずは医学的な再評価によって、治療が必要な病態がないか確認することが重要です。
2. 腰痛に関係する可能性のある4つの要素
腰痛は、特定の筋肉や関節だけが原因で起こるとは限りません。
複数の組織や神経系の働きが関係し、痛みが発生・持続する場合があります。
ここでは、腰痛に関与する可能性のある4つの要素を紹介します。
① 筋肉・筋膜:負荷と運動機能の変化
腰部には、多裂筋、脊柱起立筋、腰方形筋など、脊柱や骨盤の運動・安定性に関わる筋肉があります。
これらの筋肉や筋膜には、機械的刺激や化学的刺激を感知する侵害受容器が存在します。
組織への過度な負荷や炎症などによって、筋肉・筋膜に関連した痛みが生じる可能性があります。
また、腰痛が長期間続くと、筋活動や運動制御に変化が生じることがあります。
例えば、腰痛患者では多裂筋の筋量や脂肪浸潤、筋活動パターンなどに違いが認められる研究があります。
しかし、これらの変化が腰痛の原因なのか、痛みに伴って生じた結果なのかは、必ずしも明らかではありません。
そのため、「多裂筋が弱いから腰痛になる」「筋肉が硬いから痛い」と単純に判断することは適切ではありません。
重要なのは、筋力や持久力、動作時の負荷、活動量などを総合的に評価することです。
② 椎間板:神経を圧迫しなくても痛みに関係する
椎間板が痛みに関与していると考えられる状態は、一般に「椎間板性疼痛」と呼ばれます。
椎間板の外側にある線維輪には感覚神経が分布しており、椎間板の変性や線維輪の損傷に伴う炎症などが痛みに関与する可能性があります。
近年の研究では、椎間板の変性に伴う炎症性サイトカインの産生、血管新生、神経線維の侵入、末梢神経の感作などが疼痛機序として検討されています。
椎間板ヘルニアの手術では、突出・脱出した椎間板組織を除去しますが、変性した椎間板全体を修復するわけではありません。
そのため、神経根の圧迫が改善しても、椎間板に関連する腰痛が残る可能性があります。
ただし、ここで重要なのはMRI画像の解釈です。
椎間板の変性や膨隆は、腰痛のない人にも認められます。
無症状者を対象とした系統的レビューでは、椎間板変性は20歳で約37%、80歳で約96%に認められたと報告されています。
一方、腰痛患者では一部の椎間板異常が無症状者より多いという研究結果もあります。
つまり、MRI所見は痛みとの関連を考える手がかりにはなりますが、それだけで原因を特定することはできません。
③ 椎間関節:背骨の関節も痛みに関係する
椎間関節は、背骨の後方に存在する左右一対の関節です。
脊柱の動きを誘導・制御し、荷重を分担する役割を持っています。
椎間関節の関節包や滑膜などには感覚神経が分布しており、関節の変性や炎症、機械的な負荷などが痛みに関与する可能性があります。
椎間関節に関連する痛みでは、腰部だけでなく、臀部や大腿部に関連痛が生じる場合もあります。
また、腰を反らす動作や身体をひねる動作で痛みが変化することがあります。
ただし、こうした動作で痛みが生じるからといって、椎間関節が原因だと断定することはできません。
身体診察のみで椎間関節性疼痛を正確に特定することには限界があり、医療機関では必要に応じて診断的神経ブロックなどが検討されます。
腰痛を評価する際には、一つの動作や所見だけに頼らないことが大切です。
④ 神経系:痛みを感じる仕組みそのものの変化
痛みは、組織からの刺激がそのまま脳に伝わるだけの単純な現象ではありません。
末梢神経、脊髄、脳などによる複雑な情報処理によって生じます。
痛みが長期間続くと、一部の患者では神経系の刺激に対する反応性が高まることがあります。
このような変化の一つが「感作」です。
感作には、末梢の侵害受容器が刺激に敏感になる末梢性感作や、中枢神経系の侵害受容処理が変化する中枢性感作などがあります。
その結果、比較的小さな刺激でも痛みを強く感じたり、痛みが長引いたりする場合があります。
また、睡眠不足、ストレス、痛みに対する不安、活動量の低下なども、痛みの経験や回復過程に影響することがあります。
これは決して「痛みが気のせい」という意味ではありません。
痛みは身体組織の状態だけでなく、神経系の働きや生活環境などにも影響される、生物学的・心理的・社会的な現象です。
ただし、すべての慢性腰痛患者に感作が生じているわけではなく、痛みが長引いているという理由だけで感作と判断することはできません。
3. なぜ腰痛は一つの原因だけで判断できないのか?
ここまで、筋肉・筋膜、椎間板、椎間関節、神経系について説明しました。
しかし、実際の腰痛では、これらが独立して存在しているとは限りません。
例えば、椎間板の変性が認められる患者に、筋力や活動量の低下、睡眠障害、痛みに対する不安などが同時に存在する場合もあります。
また、腰痛に伴って身体の動かし方が変化し、特定の動作を避けるようになることもあります。
このような変化が長期間続くと、日常生活で必要な身体機能や活動耐性が低下する可能性があります。
一方で、姿勢の特徴や筋肉の硬さがあるからといって、それ自体が腰痛の原因とは限りません。
腰痛の多くは、特定の組織を一つに絞って確定することが難しい「非特異的腰痛」に分類されます。
そのため、重要なのは痛みの発生源を無理に決めつけることではありません。
医学的に注意すべき疾患を除外したうえで、症状や身体機能、日常生活に影響している要素を評価することが重要です。
4. FLOW CONDITIONINGが考える腰痛へのアプローチ
FLOW CONDITIONINGでは、「整えてから動く」という考え方を大切にしています。
これは、身体の歪みを正しい位置に戻せば痛みが治るという意味ではありません。
痛みや身体機能の状態を評価し、必要に応じて症状を緩和するアプローチを取り入れながら、運動や日常生活への復帰につなげるという考え方です。
ASSESS|評価する
まず、痛みの経過や症状の特徴、日常生活で困っている動作などを確認します。
そのうえで、関節可動域、筋力、運動機能、動作時の症状の変化などを評価します。
ヘルニア手術後の場合は、術式や術後経過、主治医からの運動制限、神経症状の有無などを確認することが重要です。
医療的な再評価が必要と考えられる場合には、コンディショニングより医療機関での診察を優先します。
RESET|症状を軽減し、動きやすい状態をつくる
痛みが強い状態では、身体を動かすことに不安を感じる場合があります。
必要に応じて徒手的なアプローチなどを取り入れ、短期的な症状の緩和や運動しやすい状態づくりを目指します。
ただし、徒手療法だけで腰痛の原因を取り除けるわけではありません。
あくまで、その後の活動や運動につなげるための補助的な手段として位置づけています。
BREATH・CONTROL|呼吸と運動をコントロールする
呼吸や体幹・股関節の運動を取り入れ、症状に合わせて身体を動かす練習を行います。
腰痛があるからといって、必ずしも体幹が不安定であるとは限りません。
また、特定の姿勢や動作がすべての人にとって正解というわけでもありません。
大切なのは、痛みや身体機能に応じて、無理なく動作の選択肢を増やしていくことです。
STRENGTH|必要な身体機能を高める
痛みが落ち着いてきた段階では、筋力や筋持久力、全身の運動能力を段階的に高めていきます。
例えば、体幹や股関節の筋力トレーニング、スクワット、ヒンジ動作なども、状態に応じて選択肢になります。
ただし、すべての腰痛患者に同じ運動が適しているわけではありません。
症状や術後の回復状況を確認しながら、負荷や運動量を調整することが重要です。
LONGEVITY|長期的に動ける身体を目指す
腰痛への対応は、一時的に症状を軽減することだけが目的ではありません。
日常生活や仕事、趣味、スポーツなど、本人が必要とする活動を継続できることも重要です。
FLOW CONDITIONINGでは、身体機能と活動量を維持し、再発への不安を減らしながら、長期的に運動を続けられる状態を目指します。
5. ヘルニア手術後の運動療法は有効なのか?
腰椎椎間板ヘルニアの手術後には、適切なリハビリテーションや運動療法が身体機能の回復に役立つと考えられています。
研究では、術後の運動療法によって身体機能や活動能力の改善が期待できることが報告されています。
一方で、運動の種類や開始時期、強度などについては研究間に違いがあり、すべての患者に共通する最適なプログラムが確立されているわけではありません。
そのため、歩行、体幹運動、股関節運動、筋力トレーニングなどを、症状や術後の経過に合わせて組み合わせることが大切です。
また、術後の腰痛に対して、運動療法が必ず痛みを取り除くとは限りません。
それでも、筋力や持久力、活動耐性を高め、日常生活や運動への復帰を支えることには重要な意味があります。
特に手術後は、主治医の指示やリハビリテーションの方針を優先し、安全に運動を進める必要があります。
6. 手術後の腰痛で医療機関に相談すべき症状
椎間板ヘルニアの手術後に痛みが残っている場合、自己判断で筋肉や関節の問題と決めつけないことが重要です。
特に、次のような症状には注意が必要です。
- 新たな排尿困難や尿失禁、排便機能の異常
- 会陰部や臀部周囲の感覚低下
- 進行する脚の筋力低下
- 急激に悪化する脚の痛みやしびれ
- 発熱を伴う強い腰痛
- 手術創部の腫れ、発赤、排液
排尿障害や会陰部の感覚低下、進行する麻痺などは、馬尾症候群を含む重篤な神経障害の可能性があるため、緊急の医療評価が必要です。
また、発熱や創部の異常、急激な症状悪化がある場合も、運動を中止して速やかに医療機関へ相談してください。
まとめ|腰痛は「痛い場所」だけでなく、身体全体から考える
椎間板ヘルニアの手術後も腰痛が残る理由は、一つとは限りません。
神経根の圧迫が改善していても、筋肉・筋膜、椎間板、椎間関節、神経系の働きなど、複数の要素が痛みに関係している可能性があります。
また、痛みが続くことによって、身体活動や運動機能が変化している場合もあります。
だからこそ、画像検査や特定の動作だけで原因を決めつけず、医学的な評価と身体機能の評価を組み合わせて考えることが重要です。
FLOW CONDITIONINGが大切にしているのは、「ほぐすだけ」でも「鍛えるだけ」でもないコンディショニングです。
身体の状態を理解し、必要に応じて症状を緩和し、適切な運動を通して身体機能を高めていく。
「整えてから動く」という考え方のもと、一人ひとりの状態や目標に合わせたサポートを行っています。
東新宿・若松河田で、腰痛による身体機能の低下や運動への不安にお悩みの方は、FLOW CONDITIONINGへご相談ください。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療を目的とするものではありません。術後の症状については主治医の判断を優先してください。